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那覇地方裁判所 昭和53年(行ウ)3号 判決

原告 沖繩航空株式会社

被告 運輸省大阪航空局長

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(請求の趣旨)

被告が昭和五一年一二月二七日付でなした原告の不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許切替申請を却下する旨の処分は無効であることを確認する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告(請求の趣旨に対する答弁)

主文同旨。

第二当事者の主張

一  原告の主張

(請求原因)

1 原告は、沖繩の復帰前の昭和四七年四月一八日及び同年五月九日合衆国民政府高等弁務官から「エアータクシー」の許可を得て航空運送事業を営んでいた。(なお、沖繩の復帰前、航空運送業者等が航空機を運行する場合には高等弁務官の許可を得ることが必要とされていた。―「琉球列島における航空運送」高等弁務官布令第六二号(「以下布令六二号」という。)第四 二節(a))

2 沖繩の復帰当時、右高等弁務官の許可をうけて航空法上の航空運送事業等に該当する事業を経営していた者は、復帰の日から起算して三月を経過する日までの間、航空法の規定による免許を受けないで、沖繩の復帰に伴う特別措置に関する法律(以下「特別措置法」という。)の施行の際営業していた範囲内において当該事業を経営することができ、又、その者が右の期間内に当該事業に関し航空法の規定による免許を申請した場合において、その申請に対する免許の許否の通知を受けるまでの間は右三ケ月の期間を経過した後も当該事業を引続き経営できる旨規定されている。(沖繩の復帰に伴う運輸省関係法令の適用の特別措置等に関する政令((以下「政令」という))二四条一五項)

そこで、原告は右エアータクシー事業を復帰後も継続して経営するため、原告の代表者らが昭和四七年八月上旬運輸省航空局監督課に航空法上の免許申請手続について行政相談のため赴いたところ、同課係官は原告の代表者らに対し右エアータクシー事業は航空法上の不定期航空運送事業に該当するとの判断を示し、政令二四条一五項後段の適用を受けるためには不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許申請を被告に対してするよう指導した。

3 そこで、原告は、昭和四七年八月九日、被告に対し不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許の申請(以下「本件免許申請」という。)をしたところ、被告は、同五一年一二月二七日これを却下(以下「本件却下処分」という。)した。

4 しかし、被告のおこなつた本件却下処分には以下に述べるような重大かつ明白なる瑕疵があるので無効である。

(一) 原告は、本件却下処分をなす権限を有しない。

(1) 被告は航空法及び同法施行規則上定期航空運送事業者以外の者がおこなう不定期航空運送事業及び航空機使用事業の免許権限を有するが、定期航空運送事業者のおこなう右申請の免許権限並びにすべての定期航空運送事業の免許権限は運輸大臣にあり被告にはない。(航空法一〇〇条一項、一二一条一項、一二三条一項)同法施行規則二四〇条一項三七号イ、同号の二)

(2) 原告の右エアータクシー事業は以下の理由で航空法二条一項一七号に規定する「定期航空運送事業」に該当する。

すなわち、原告の右エアータクシー事業は米国の「コンミユンター」に該当し、路線免許を必要としないが、運航スケジユールに従い二地点間に路線を定めて一定の日時により運航する航空機により不特定多数の乗客を運送する事業であり、運送約款を付した航空券の発売、運送約款の掲示、代理店の設置と集客がいずれも可能であつた。(なお、現行航空法の不定期免許では反復継続する運航は認められていない。)

(3) 従つて、原告は航空法上の定期航空運送事業者に該ると解すべきであり、原告の本件免許申請もその実質は定期航空運送事業の免許申請であるから、被告は原告の本件免許申請を却下する権限を有しない。

(4) 又、被告は昭和五〇年五月六日本件免許申請手続に関する説明会の席上原告のエアータクシー事業は航空法上の定期航空運送事業に該当し、その免許権限は運輸大臣にあると説明したうえ、本件申請に関する管轄を運輸省航空局へ移した。

従つて、この点からも被告に本件却下処分をなす権限のなかつたことは明らかである。

(二) 本件却下処分は特別措置法五三条一項、憲法一四条に違反する。

すなわち、被告は特別措置法五三条一項により、原告のエアータクシーに関する右高等弁務官の許可の効力を沖繩の復帰後も承継し、当然に原告に対し航空法上の免許を与えるべきであるにもかかわらず、原告に改めて免許申請をさせたうえ、これを新規の免許申請と同様に航空法の定める基準に従つて審査して却下したことは、特別措置法五三条一項に違反し、又沖繩の復帰に際し沖繩の法人たる原告を不当に不利益に扱つたもので憲法一四条に違反する。

(三) 本件却下処分は政令二四条一五項の趣旨に反し又明白な権限の濫用に基くものである。

すなわち、政令二四条一五項の趣旨に照らせば、被告は原告の本件申請の審査中原告のエアータクシー事業の継続のために十分配慮すべきであつたにもかかわらず、右エアータクシー事業継続のための手続を相談した原告の代表者らに対し、定期航空運送事業免許申請を提出するよう指導すべきところ、右エアータクシー事業を航空法上の不定期航空運送事業であると誤解し、不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許申請を出すよう誤つた指導をくり返したうえ、原告に対し以下のような迫害を加えてその弱体化をはかり、本件申請を四年半も放置し原告の経営を窮地に追い込んだ後に本件却下処分をおこなつた。

(1) 被告は、昭和四九年一二月一三日の読売新聞紙上で原告を誹謗し、その社会的信用を失墜せしめた。

(2) 被告は他社に対し政令二四条一項による申請以前にツインオツター二〇人乗航空機(ケロシン燃料)を提供し原告の運航区間内で競合させ原告の経営を圧迫した。

(3) 被告は原告が運航していた石垣ー与那国間において無免許であるとの理由で一時その運航を停止せしめ、原告の同区間の経営を困難ならしめた。

(4) 被告は、原告が復帰の日まで航空運送事業上使用していた地対空用無線周波数(一二二・三メガ)を取り上げ、原告が数千万円を投じて設置した無線塔も使用せぬままに灰燼に帰せしめ、原告に多大な損害を与えた。

(5) 被告は原告所属の航空機に対し航空自衛隊にスクランブルをかけさせその乗務員に精神的打撃を与えた。

(6) 被告は、那覇航空事務所に対し、原告の購入機(ドルニエ二機)の那覇飛来の際はその着陸を拒否し、同機が着陸した場合は捕獲すべき旨の命令をした。

(7) 被告は原告の整備士に対し精神的圧力を加え、その結果ドルニエ二機は整備されぬまま屑鉄同様となり、原告に甚大な損害を与えた。

よつて、原告は被告に対し、本件却下処分の無効確認を求める。

二  被告の主張

(請求原因に対する認否)

請求原因事実中1ないし3の事実は認め、その余は争う。

(本件却下処分の正当性)

本件却下処分は、以下の理由で適法かつ有効である。

1 被告は本件却下処分をなす権限を有している。

すなわち、本件免許申請は、(一)定期航空運送事業者以外の者がおこなつた(二)不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許申請であり(三)申請者の住所は大阪航空局の管轄区域内に存していた。(航空法一二一条及び一二三条各一項、同法施行規則二四〇条一項三七号イ、同号の二、運輸省設置法五五条の三)

右(三)については原告も認めるところであるので右(一)および(二)につき、以下その理由を詳述する。

(一) 航空法施行規則二四〇条一項三七号の定期航空運送業者とは航空法一〇〇条一項の規定による定期航空運送事業の免許を受けた者を意味するが、原告は以下にのべるように右免許をうけた者とは解し得ない。

すなわち

(1) 原告は右高等弁務官よりエアータクシー事業の許可を受けていたとはいえ、右エアータクシー事業の許可を航空法上の定期航空運送事業免許とみなす旨の、若しくは、定期航空運送事業に該当する事業を経営していた者を同法上の定期航空運送事業者とみなす旨の規定も存在しない。

(2) 仮に、右定期航空運送事業者には、申請当時、同法上の右免許を受けていなくとも、その性質において同法上の定期航空運送事業に相当する事業を適法に営んでいた者も含まれると解するとしても、原告のエアータクシー事業は以下の理由でその性質においても同法上の定期航空運送事業には該当しない。

(イ) 航空法上、定期航空運送事業とは二地点間に一定の路線を定め、一定の日時により航行する航空機によつて行う航空運送事業であり(同法二条一七項)右免許を受けた者は申請書の事業計画記載の一定の路線により一定の日時に従つた運送役務を提供すべき公法上の義務を負う。

これに対し同法上の不定期航空運送事業とは、定期航空運送事業以外の航空運送事業で、路線、一定の日時のいずれか、又は双方をあらかじめ定めないものを意味する。

(ロ) 「エアータクシー」本来の運航形態は、旅客の時々の需要に応じ飛行経路により運航するものであるから、不定期航空運送事業に該当することは明らかである。

そのうえ、原告が右高等弁務官の許可をうけたエアータクシー事業の範囲は認可証の写等から判断して運航区間の定めはあるにしても、あらかじめ定められた日時に運航すべき義務が課せられていたとは認め難い。

(ハ) そのうえ、一九七一年(昭和四六年)一二月二日付米国政府の広報「ニユースリリース」によつても、原告のエアータクシー事業はノンスケジユールと記載され、認可当局である米国民政府の見解でも不定期と理解されていたことは明らかである。

(ニ) 本件免許申請は、以下にのべるようにその形式、内容共不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許の申請である。

(1) 本件申請書(修正申請書も含む)はいずれもその表題部に「不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許申請(昭和四九年七月二四日付修正申請書は不定期航空運送事業免許申請のみ)」と記載されている。

(2) 本件申請書には定期航空運送免許申請書の記載要件(同法施行規則二一〇条)中(イ)同法一〇一条一項一号及び二号に掲げる基準に適合する旨の説明(同条七号)、(ロ)路線の起点、寄航地及び終点並びにそれらの相互間の距離(同条八号イ)、(ハ)運行回数及び発着日時(同号ハ)、(ニ)定期運送用操縦士(同条九号同法二八条)、(ホ)運航管理者(同条九号同法七八条)の各記載を欠いている。

もつとも昭和四七年八月九日付申請書には「スケジユール表」が添付されているが、右表は、その「註」によれば、米軍航空管制センターの要望により航空管制上の目安として提出してあつたものを、原告の過去の運航実績の参考資料として添付したにすぎず、原告の事業計画と関係のないことは、右表の編てつ位置、同表記載の運航地点往復回数の記載が、事業計画で予定するそれと一致しないこと、及びその後の修正申請書中にはスケジユールに関する何らの記載もないこと等から明らかである。

2 本件却下処分は特別措置法五三条一項に違反しない。

すなわち、同法五三条一項の解釈上航空法の事業免許関係は同条一項の例外に該当し(なお、同条一項の原則と例外の具体的適用については政令で規定すべきところ、航空法関係の事業免許については、右原則を適用すべき旨の政令は存在しない。)、その他の法規中にも原告の有する右エアータクシー事業の許可を航空法上何らかの免許とみなす旨の、若しくは復帰前の沖繩において適法に航空法上の定期航空運送事業に該当する事業を経営していた者が航空法の規定による免許申請をした場合必ず免許すべき旨の、又は、その免許申請に対して処分基準を緩和すべき旨を定めた規定も存しないのであるから、原告が復帰後航空法上の免許を要する運送事業等を経営するには、改めて同法に基く免許申請をすべきと解することには、何らの違法もない。

3 本件却下処分には政令二四条一五項の違反も権限の濫用もない。

(一) 原告が請求原因4(三)で主張した各事実はいずれも事実に反するが、仮に事実であつたとしても本件却下処分は政令二四条一五項に違反しない。

(二) 被告が原告の弱体化をはかつたなどとは事実無根である。

本件申請の審理に長時間を要したのは、原告が事業計画の変更のためとして昭和四八年八月三一日、同四九年七月二四日、同五〇年二月一七日の三回にわたり修正申請をしたこと、同四九年三月頃、同五〇年二月頃原告役員の交代があつたこと、申請書記載の事実と原告経営の事業の実態との間に齟齬があつたうえ、原告は、被告の再三の督促にもかかわらず、必要な資料を提出せず、又提出した資料についても不備があつたこと等によるものであつて、被告の害意又は怠慢に基くものではない。

(三) 運輸省航空局の職員が原告に対し不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許申請をするよう指導したことは前記のとおり何ら違法、不当ではなく、仮に右指導内容に原告主張の誤りがあつたとしても、単に行政指導上の問題に留まり、原告はこれに従うか否かの自由を有していた以上、右指導内容の誤りは本件却下処分の無効原因たりえない。

第三証拠〈省略〉

理由

一  (争いのない事実)

請求原因事実中1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  (被告の処分権限の有無について)

原告は、被告には本件却下処分をする権限がない旨主張するのでその点につき判断する。

1  航空法一二一条一項、同法施行規則二四〇条一項三七号イにより、被告はその管轄地域内における定期航空運送事業者以外の者の行なう不定期航空運送事業の免許の権限を運輸大臣から委任されているので、原告の本件免許申請が、被告の右権限内の事項に該当するかどうかについて、原告の主張にしたがつて順次検討する。

2  まず原告は、その経営する右エアータクシー事業が航空法上の定期航空運送事業(同法二条一項一七号)に該当するので、原告は定期航空運送事業者と解すべきであり、したがつて、前記規則二四〇条一項三七号の「定期航空運送事業者以外の者」に該当しないので、被告は、原告の本件免許申請を却下する権限を有しない旨主張するが、原告を航空法上の定期航空運送事業者に該当するとは認め難いので、右原告の主張は採用しえない。

すなわち

(一)  航空法上の定期航空運送事業者とは、同法上の定期航空運送事業免許(一〇〇条一項)を受けた者と解すべきところ、原告が本件申請当時から現在にいたるまで同法上の手続により定期航空運送事業の免許を受けていないことはその主張に照らし明らかであるうえ、原告が高等弁務官から受けていたエアータクシー免許を、右定期航空運送事業免許とみなす旨の法令も存在しない以上、原告が右定期航空運送事業者に該当すると解することはできない。

(二)  又、仮に、右定期航空運送事業者の免許を受けていなくとも特別措置法施行の際沖繩県の区域内において適法に航空法の定期航空運送事業に該当する事業をおこなつていた者も、右定期航空運送事業者に該当すると解しうるとしても、原告の右エアータクシー事業は次に述べるとおり右定期航空運送事業に該当するとは認め難いので、いずれにしても原告が右定期航空運送事業者に該当するとは解し得ない。

(1) すなわち、同法上の定期航空運送事業とは二点間に路線を定め一定の日時に運航する航空機によつておこなう運送事業であり、右事業免許を受けた者は、あらかじめ免許申請書に記載した一定の日時に従つた運送役務を果すべき公法上の義務を負うと解すべきところ、成立に争いのない甲第七、第一二、第二二号証の一ないし三、第二六号証、証人大田均、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は右エアータクシー事業をおこなうにあたり、あらかじめ運航のスケジユールを定め、航空券を発売し、事実上右スケジユールに従つた運航をおこなつていたことが認められる。

(2) しかし、成立に争いのない甲第九、第一七号証、乙第九、第一七ないし第二一号証、証人奥洞成男、同三鴨猛人の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、高等弁務官のエアータクシーの許可証並びに右許可に関する運営許可証、運営明細書、公共の便宜及び必要についての許可証及び原告提出の運航明細申請書(補足資料を含む)中には、原告が運航に際し具体的に一定の日時を定めて運送役務を提供する旨の記載のないこと、一九七一年一二月二日付米国民政府の広報「ニユースリリース」中には、原告は高等弁務官からの認可証により先島地域内の各離島間で「ノンスケジユール」のエアータクシーサービスを行うことができる旨の記載のあること、甲一七号証(伊藤良平「アメリカゼネラル航空の現状」)では、アメリカ合衆国におけるコンミユーター(原告は右エアータクシー事業の形態が右コンミユーターに該当する旨主張している。)は、定期航空と異なり、発着回数ダイヤを企業が自由に決定できる旨の説明がなされていることが認められる。

(3) そして、右2(二)(1)認定の各事実も、右2(二)(2)認定の各事実と総合すれば、これをもつて原告が右エアータクシー事業に関し、一定の日時に運送役務を果すべき公法上の義務を負つていたと認めるには不十分であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  次に原告は、本件免許申請がその形式はともかく定期航空運送事業免許の申請であつた以上、被告に本件却下処分をおこなう権限がなかつた旨主張するのでこの点につき判断する。

成立に争いのない乙第一、第五ないし第八号証、証人奥洞成男、同三鴨猛人、原告本人尋問の結果(以下の認定に反する部分は除く)及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告提出の本件免許申請(修正申立書を含む)はいずれもその表題部に「不定期航空運送事業及び航空機使用事業免許申請書(昭和四九年七月二四日付修正申請書は不定期航空運送事業免許申請のみ)」であることが明記されており、原告もその本人尋問中で右申請書を不定期航空運送事業免許申請書として作成したことを自認していること、本件申請中には定期航空事業免許申請書であれば記載を義務づけられている航空法一〇一条一項一・二号に掲げる基準に適合する旨の説明(航空法施行規則二一〇条一項七号)路線の起点、寄航地及び終点並びに相互間の距離(同条八号イ)運行回数及び発着日時(同号ハ)等の記載の欠けていることが認められる。

右事実によると、本件免許申請はその内容形式とも不定期航空運送事業免許の申請であつて、定期航空運送事業免許の申請であるとは到底認め難く、他にこれを認めるに足りる証拠はないので原告の右主張は採用できない。

4  さらに原告は、被告が昭和五〇年五月六日本件免許申請手続に関する説明会の席上原告の有するエアータクシー免許に基づく航空運送事業は「定期航空運送事業」に該当し、その免許権限は運輸大臣にあると説明したうえ、本件免許申請事案の管轄を運輸省航空局に移した旨主張し、証人大田均、原告代表者本人尋問の結果中にはこれに副う供述もあるが、右各供述も二2、3判示の各事実、証人奥洞成男、同三鴨猛人の各供述に照らし、にわかに採用しえず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、原告の右主張も採用しえない。

三  (特別措置法五三条一項、憲法一四条違反について)

次に、原告は、被告が特別措置法五三条一項により原告の右エアータクシーに関する高等弁務官の許可の効力を沖繩の復帰後も承継し、当然に原告に対し航空法上の免許を与えるべきであつたにもかかわらず、原告に改めて免許申請をさせたうえ、これを新規の免許申請と同様に航空法の定める基準に従つて審査して却下したことは、同法五三条一項に違反し、又、沖繩の復帰に際し沖繩の法人たる原告を不当に不利益に扱つたもので憲法一四条に違反する旨主張するが、原告の右主張も次に述べる理由により採用できない。

すなわち

1  特別措置法五三条一項は、同法施行前に本土法令の規定に相当する沖繩法令の規定によりなされた免許等の処分は政令で定めるところにより本土法令の相当の規定によりなされた処分とみなすことを原則とする一方、沖繩、本土間で処分の基準が著しく異なる等特別の理由のある場合は例外として、みなし規定を適用しない旨規定する。

そして、一・二判示の事実、前掲甲第九号証、乙第一、及び第五ないし第八並びに第一七ないし第二一号証、成立に争いのない甲第一三及び第一四(但し書き込み部分は除く)号証、証人三鴨猛人の証言並びに弁論の全趣旨によれば、復帰前の沖繩ではエアータクシー免許のように航空法上独立の事業免許としては規定されていない免許が法令上独立の免許の種別として規定されていた外、右免許審査の基準、免許を与える際の条件についても航空法上のそれとは著しく異なつていたことが認められるうえ、航空法上の航空運送事業の免許に関しては、航空機航行上の安全性を確保するため、国内でその審査基準、免許を与える際の条件等を均一化し、右事業の範囲内容運営形態を全国的に統一する必要性が極めて高いことをも考慮すれば、航空法関係の事業免許は同法五三条一項の例外事項に該当すると解すべきである。(因に、航空法関係の事業免許については、同第一項の原則に従つて復帰前の沖繩法令の規定によりなされた免許等を本土の法令によりなされた免許とみなす旨の政令は存在しない。)

従つて、原告が右エアータクシー事業を沖繩の復帰後も継続するためには、改めて航空法上の免許申請手続をとつたうえ、右申請につき同法規定の基準による審査を受けなければならないと解することは、同法五三条一項に違反するものではない。

2  もつとも本件のように特別措置法五三条一項例外事項に該当する場合、本土法令の免許基準が復帰前の沖繩法令のそれより厳格であるとすると、復帰前の沖繩法令による事業免許を受けていた者に、本土法令に基く新たな免許の取得、延いては事業の継続が困難になる等の不利益の生ずることが十分予想されるところである。しかし、本件却下処分のため原告に右のような不利益が生じたとしても、右不利益は、航空機の航行上の安全性を確保するため国内の航空法上の事業免許の審査基準免許を与える際の条件等を均一化し、国内の航空運送事業の範囲、内容、運営形態を統一するという高度の公共の利益を達成するためには必要かつやむをえざる不利益であるので、右不利益の発生を根拠に本件却下処分が憲法一四条に違反すると解することはできない。

四  (政令二四条一五項違反、権限濫用について)

最後に、原告は、被告が、原告から右エアータクシー事業継続のための手続の相談を受けた際、前記のように定期航空運送事業免許申請を提出するよう指導すべきところ、右エアータクシー事業を航空法上の不定期航空運送事業であると誤解し不定期航空運送事業免許及び航空機使用事業免許申請をするよう誤つた指導をくり返したうえ、原告に迫害を加えその弱体化をはかり、本件申請を四年半も放置して原告の経営を窮地に追い込んだ後に本件却下処分をおこなつたのであるから、本件却下処分は政令二四条一五項の趣旨に明らかに違反し、又権限を濫用したものであつて、重大かつ明白な瑕疵があるので無効である旨主張するが、右原告の主張も以下に述べる理由により採用しえない。

1  まず、運輸省航空局の係官は原告に対し右エアータクシー事業が不定期航空運送事業に該当するとの判断にたつて不定期航空運送事業と航空機使用事業の免許申請を、するよう指導したことは当事者間に争いのないところであるが、二2判示のように原告の右エアータクシー事業が、航空法上の定期航空運送事業に該当するとは認め難い以上、右エアータクシー事業が同法上の定期航空運送事業に該当することを前提に右指導の適否を論難する原告の主張は、その前提を欠きその余の点を判断するまでもなく採用しえない。

2  次に本件申請の審査に四年以上を要したことは当事者間に争いはないものの前掲乙第一、第五ないし第八号証、成立に争いのない甲第二号証の一、第三号証、第八号証、乙第二、第三号証、第一〇ないし第一六号証、証人奥洞成男、同三鴨猛人及び弁論の全趣旨を総合すれば原告は被告に対し、昭和四七年八月九日付、本件免許申請書を提出した後、昭和四八年七月三一日付、同年八月三一日付、昭和四九年七月二四日付、昭和五〇年二月一九日付の四回にわたり右申請内容を修正変更する申請書を提出していること、原告が右各申請の際被告に提出した資料が不十分であつたため、被告は原告に対し、再三にわたり口頭で右資料の追完を求め、さらに昭和四八年三月一九日、二〇日頃、四月二四日、同年一二月一〇日、昭和五〇年三月二四日、昭和五一年四月二〇日、同年七月三日にいずれも書面をもつて右追完を求めたが、原告から満足な回答を得られなかつたこと、原告の代表者が昭和四九年から五〇年頃にかけて二回交代したことが認められ、以上の各点を総合すれば、本件申請の審査に長期間を要した原因は被告の原告に対する害意又はその怠慢にあるとは認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

3  次に成立に争いのない甲第一号証によれば、読売新聞が昭和四九年一二月一三日付記事で「無免許飛行もう許さん」との見出しの下原告のエアータクシー事業の継続を報道し、右記事中には、被告係官が「こんな会社では安全の保障に責任が持てない。運輸省の基準に合うよう改善しない限り運航中止の措置を取る」等と発言した旨の記載があるが、右記事も、四2判示の審査の経緯証人奥洞成男、同三鴨猛人の各証言に照らすとこれをもつて直ちに、被告が本件申請の審査期間中原告を迫害してその弱体化をはかつたこと及び右迫害が主たる原因となつて原告が経営上の窮地に追い込まれことを認めるには不十分であつて、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4  従つて、本件却下処分が政令二四条一五項の趣旨に明らかに違反し又濫用にあたるとの原告の主張はこれを認めるに足りる証拠はない。

五  以上判示のとおり、被告の本件却下処分は適法な処分であつて、原告主張の如き瑕疵はなく、他に処分を無効ならしめる程重大且つ明白な瑕疵は認められない。

六  よつて原告の被告に対する本訴請求は理由がないのでいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条民事訴訟法八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 宮城藤義 長嶺信栄 大竹たかし)

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